“フェアの果てへの旅”にCFOとして参画するまで
こんにちは、永田達哉といいます。10月にMNTSQ(モンテスキュー)という会社にCFOとして入社いたしました。
MNTSQは創業6年目、現在約100名のリーガルテック・SaaSのスタートアップです。
「すべての合意をフェアにする」というビジョンのもと、企業の契約・法務業務を一気通貫でサポートするSaaSプロダクトを提供しています。
国内を代表する大手企業様に利用いただいている実績が評価され、資金調達を2024年5月に行いました。また、AI契約レビュー機能をリリースするというプロダクト面での進歩と、西村あさひ様との戦略的提携も発表するなど、社会により大きな価値を提供できるよう、より高みを目指し、これまで以上に大きなチャレンジに立ち向かっているところです。
これまでふらふらしてきた自分が職業選択の軸をその時々でどう考え、MNTSQにたどり着いたかをお話しさせてください。
仕事選びやキャリアに悩んでいる方のご参考になれば嬉しく思います。
“あなたはどこにでも行ける”?
MNTSQと出会う少し前、接触してきたヘッドハンターから“You can go anywhere you like.” とお世辞を言われました。コンサルをやって、コーポレートファイナンスの仕事もして、VCとスタートアップ両方の経験があるから次はどこでも好きな方に行ける、という趣旨のようです。
仮にそうだとしても、どこにでも行ける必要はない。数多のうちからただ一つを選び取らねばならない。人生は一度きりで、自分という人間は一人しかいないのですから。
それは私だけでなく、このテキストを読んでいるあなたもそのはずです。
修行を経てモラトリアム
“始まりはこうだった。おれはなんにも言ったわけじゃない。ひとことも。”
(『夜の果てへの旅』 ルイ=フェルディナン・セリーヌ)
人生最初の進路選択から振り返ってみます。
「今生では数学者になり、来世ではできればロックスターとかに生まれ変わりたい」
などと甘い考えで入った大学でいざ数学の道を志し、家にこもって寝て起きて数学をやるだけの生活を続けていました。ある時、1週間家にこもって数学書と格闘していたら世の中では8日経っていたことがあり、「む、ついに俺もこの領域まで来たか。悟り、開いたか。」と妙な方向で得心していました。
学問はそれなりに頑張ったつもりですが、その道で進むのは自分の能力・胆力では難しいということに気付きます。気付いたはいいものの、テレビもネットもない、俗世から隔絶された生活を続けた人間には世間様に一体どんな仕事があるか見当もつかず、友人から聞いた「なんかすごそう」「問題を解決すると給料がもらえるらしい」との噂を頼りにコンサルティング業界で仕事を始めることにしました。
やってみるとそこそこ上手にできることが分かったので、同じく「なんかすごそう」らしいM&Aの仕事もやってみようと手を伸ばし、キャリアの最初でお世話になった上司とコンサルティングとFA業務のどちらも行うチームを立ち上げることとなりました。
この手の「なんかすごそう」な仕事というのは、実際にやっていることは特段すごいことでもないと思うのですが、「なんかすごい」ことで色々なキャリアのオプションがある(ように見える)のが恐ろしいところです。
自分が何に殉ずるか、人生を通じて何をしたいのか。
「何かになれる」という可能性を留保したまま、個人の重要な意思決定を先送りしているように思われました。いわばオトナのモラトリアム期間です。
やったことがない事がしたい
環境を変えてよく考えよう。海外のビジネススクールという選択肢を思い立ち、INSEADというフランスとシンガポールにある学校に行きました。
プログラムはハードの一言。授業中はSNSで交わされるクラスメート間のチャットでいかに面白いことを言うか常に知恵を絞り、脳に汗をかき続けました。SNS大喜利で忙しく記憶があやふやなのですが、教室の前方で教授なる人が何か話していたのを横目に見たように思います。
そんな充実した学びの日々を経て、晴れて卒業となりました。
さて、卒業後の進路変更は「国・業界・業種」の3つをどう変えるか、全部変えるのはほぼ不可能なので、1つか2つに絞るのが現実的な線です。国を変えると環境がガラッと変わりそうで、まずはこれにチャレンジするのでした。
すると業界・業種はおのずと固定され、いざ仕事のオファーをもらってみると「海外でコンサルティング」「海外で経営企画的な仕事」など、仕事内容は想像がつくものばかりで楽しめる自信が持てず。
そこで気が付きました。自分は今までにやったことがない事がしたいのだな、と。
また、仕事から離れて世の中の状況を見回すと、ここ十数年の世の中を大きく変えているのはGAFAMなどといわれるテクノロジーを中心とした企業です。これからの世界では今まで自分がしてきたようなITとあまり縁のない仕事が社会に出せる価値は目減りしていくのではないかな、と心配にもなりました。
やったことがない事がしたい。無責任な話です。
やったことは無いがやれそうだ
日本に帰ってきて、ご縁があってDEEPCOREというAI特化のVC兼インキュベーターの立ち上げに参画することになりました。
とはいえスタートアップもAIも未経験では不安がいっぱいです。やれなくては職業人としてさすがにまずかろう。
各分野の専門家の友人達にアドバイスをもらい考えたところ、
・背後の技術で使われる数学が自分には理解できそう
・産業応用が効きそうな技術から派生するビジネスは色々考えられそう
・顧客企業の投資の意思決定を支援してきた経験が活きそう
などと不思議なことに今まで自分が培っていたもの全てが当たりはせずともかすってはおり、「やったことが無い」が「やれそうな感じ」が見えてきました。何より、自分の心が動くことが重要です。
ファンドの企画からインキュベーションプログラムの検討、投資実行、海外のVC・アクセラレーターとの関係構築と、新しいチャレンジの毎日が飛ぶように過ぎていきました。
上司、同僚とも尊敬できる人ばかりで、これまでのキャリアで最もエキサイティングな時期の一つだったと改めて思います。
あなたはどうしたいの?
とそんな中、言われました。投資案件の検討をしていたある日のことです。
投資をするべきか見送るべきかボスと私の見解が割れたのです。ボスは投資の世界ではレジェンドのような存在ですが、そこはSNS大喜利で鍛えた情報処理力を活かし、物怖じせずにやりあいます。
が、入念にリサーチした事実で理論武装し、意見を戦わせてもしょせん仮説は仮説。どこまでいっても不確実性はなくならず議論は尽きません。
「で、永田さんはやりたいの?」という質問が飛んできて、初めて答えに窮することに。
「自分が決める」というのは、顧客の意思決定を支援するこれまでの立場では存在しなかった行動原理です。
なるほど、正解を探したり選んだりするのではなく、不確実性がある中で自分で決めて、それを正解にせよ、ということなのだな。
だったら徹底的に突き詰めてみるか。
ちょうど自分の担当していたスタートアップでエンジニア3人だけのチームがあり、事業展開を担う最初の一人を一緒に採用しようとしていた所です。ならば投資検討を通じて技術を一番よく分かっている自分が行ってやってみようと決断をしました。
「AIスタートアップのCOO」というとカッコいい肩書なわけですが、実態としては研究開発以外の全てをやる、代表取り締まられ役のような状況です。
事業計画の作成、資金調達、大手企業との複雑な契約交渉と(字面だけ見れば)華々しい仕事もする一方、それだけでは会社は運営できません。
見込み顧客へのアポ取りに鬼電、諸々の銀行振込、契約書など書類の保管、SNSで見つけた人にスカウトメールを送る、取材獲得のためにメディアに売り込み...などなど、会社を動かす上で必要なことをとにかく全部やる。
しかしながら、要素技術に特化して研究開発にフォーカスする戦略・組織形態で事業を進める中、会社の伸びが数字に現れにくい状況が続き、最終的には会社を売却することになりました。
顧客や各ステークホルダーにとっては良い結果にならず、自分の至らなさを反省するばかりです。
「いやー、自分にとっていい経験になりました。学びがありました!」
などとは口が裂けても言えません。個人としての成長を無責任に追い求める旅の中にも、関係各所への責任は厳然としてあるのですから。
次は結果を出したい。大きくなって上場した後もさらに成長し続けるようなスタートアップを日本に作りたい。
これはやったことが無いことです。やれそうでしょうか。やるのです。
自分の成長やら学びやらを度外視し、何にでもなれる選択肢も放棄し、社会に何ができるか、何に殉じるかの覚悟を持てるようになりました。
フェアの果てへの旅
「MNTSQという会社があって、すごくいい会社で永田さんなら絶対合うと思うんです!」と唯一お付き合いしていたエージェントの方から言われました。
色々なお話しを各所から頂いていた中、CFOというポジションは自分にはどうなのかと。CFOというのはもっぱら守りの仕事というイメージであり、今まで自分がやってきたこととは少し角度が違います。
会社名の読みにくさも相まって、まぁ話しだけでも聞いてみよう、くらいの気分で社長の板谷と会いました。
事業戦略について色々とディスカッションした後、
「永田さんは事業寄りのキャリアで、なぜCFOのポジションで選考受けてるんです?」
「ん~、やったことが無くて、やれそうだからです。」
「すごい!MNTSQっぽい!!」
というやりとりになり、「ああ、この会社だったら案外いいかも」という気持ちがふつふつと湧くのを感じました。事業をどう伸ばすかのアイディアも湧いてきます。
後日、COOの井上と創業者の一人である堅山との面談です。
さすがに「やれそう」を証明する必要があるので、事前に準備した資料を使ってのディスカッションです。マシンガンのようなスピードで質問をする堅山と、相手の話にしっかりと耳を傾け考え抜かれた質問をする井上との議論がとにかく楽しく、あっという間に時間となり。
ひとしきり議論が終わった後で井上に、何故MNTSQを選んだのか?と尋ねると、
「この会社で仕事をしていると、日々社会の役に立っていると実感できるんですよ。」
と静かながら確かな言葉が返ってきます。
「お、この会社結構いいかもな」(小並感)
井上は創業メンバーではありません。しかし、創業者でない人間が事業の存在意義を自分事にできていることは、強いチームの証なのです。
最後にもう一度、板谷との面談。
聞きたいことは一つだけ。
「すべての合意をフェアにする、というビジョンについて。これが出来ることがゴール、という見立てはありますか?旅の果てはどうなるのでしょう?」
いつも即答する頭の回転が速い板谷が、珍しく間をおいて少し考えた後、
「終わりはなく、ずっと続くと思います。すべての合意をフェアにするというのはそれほど壮大な夢で、いつまでも追い求め続けたい。」
それが分かれば十分です。上場がゴールでこの旅は終わらない。
面談の中で握手をして、今、MNTSQで仕事をしています。
我々、MNTSQは、リーガルテック企業です。契約業務をテクノロジーで革新するプロダクトがお客様に支持されています。
ただ、「すべての合意をフェアにする」というのは契約書のやり取りだけに閉じる世界なのでしょうか。合意というのは人間の営みのあらゆる局面において発生しているものであり、必ずしも契約業務だけに留まらないと考えています。
最近、こうした考えをもとに社内でディスカッションする中、MNTSQが中長期的に展開していく事業の輪郭がおぼろげながら見えてきました。それは契約業務という枠を越えて世の中のフェアを実現する、野心的な挑戦になるでしょう。
フェアの果てへの旅はこれからもっともっとダイナミックになっていきます。法律とはある種真反対の数学から、紆余曲折を経てリーガルテックの会社にいるのも不思議な感じがしますが、この旅にはそれだけ多くのバックグラウンドの人を惹き付ける何かがあると信じています。
どんな展開を目論んでいるか知りたい?ぜひカジュアル面談でお話ししましょう!
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