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GPT時代のサバイバル戦略 - SaaSはなにを考えるべきか?

こんにちは。LLMであらゆる業務をアップデートしたい板谷です。

chatGPTによる新たな体験は目を見張るばかりで、あらゆるSaaSが不可避的にアップデートを迫られています。ワクワクするような面白い挑戦が、そこかしこに転がっています。

私はもともとNLPを強みとするLegalTech企業のCEOをしていますが、最近は1日4時間はLLMのことを考えています。プロトタイプのディスカッションは毎回白熱し、これまでの数倍の価値のSaaSを作れるはずだという手ごたえを感じます。

しかし、ここではあえて「つまらない話」にフォーカスします。なぜなら、3年後の未来を想像すると、むしろ「これまでも当たり前だった話」で業務SaaSの勝負が決まっていると私は感じているためです。

AIの民主化と「つまらない話」

「これまでも当たり前だった話」がより重要になる理由は、「汎用化されたLLMの登場により、アルゴリズムによる差別化がむしろ難しくなる」と考えるためです。

LLMの目を見張る点は、Foundation Modelの名のとおり広範な用途に使えることだけでなく、個々のSaaSへの組み込みが圧倒的に簡単になったところです。これにより、AIはもはやSaaSの「当たり前品質」として組み込まれていくはずです。

もちろん、個々のSaaS企業によるFine-Tuningによって、最終的なアルゴリズムを差別化できる余地は残るかもしれません。しかし、ここではChatGPTと同時に登場した革命 ―― 対話的インターフェースによるFine-Tuningを可能にする “Prompt Engineering” の登場まで踏まえる必要があります。

Prompt Engineeringの画期的な点は、Fine-Tuningのプロセスが非技術者に対して民主化されたことにあると私は考えています。すなわち、専門的なアルゴリズム開発者を擁していなくても対話的なインターフェースによってFine-Tuningを進めることができ、またfew-shot / zero-shot(少数データでのチューニング)でも実用的な成果が得られることによって、アルゴリズム開発プロセスが容易になっていく可能性があります。

いわば、「AIの民主化によって、Fine-Tuningで差別化することが難しくなる」可能性があると私は見ています。

すると、数年後に待っているのは、実は「これまでも当たり前に重要だとされていた話」でプロダクトの勝負が決まる未来ではないでしょうか。例えば、以下のような話です。


「データを押さえる」こと

業務SaaSにおけるLLMの価値は「人間が最終責任を負えること」、すなわちその内容が真実と確認できること」と不可分になると私は考えています。Generative AIがとても流暢に「嘘」をついてしまうことは企業活動において致命的な問題であるためです。

この問題を避けるために、Generative AIがなにかを生成するときには「根拠の引用」が同時になされることが非常に重要だと私は考えています。

このときSaaSが、インターネットから拾ってきた誰でもリーチできるデータではなく、その企業内にしか存在しない、その企業内で真実性が担保されている情報と連携し、それを推薦することができれば、それは圧倒的な体験になります。

私たちのようなLegalTechでいえば、インターネット上の真偽不明のデータではなく、例えばその企業の「稟議データ」「過去の検討データ」から契約交渉戦略を自動生成することができれば、それは破壊的な価値となり得ます。

すると、どのSaaSの教科書にも書いてあるであろう「その企業内の重要データを押さえろ」という基礎に、私たちは立ち返る必要があります。私たちMNTSQ社は幸運なことに、ユーザー企業のストレージデータと既に幅広く連携できているため、これをいかに活用できるかがポイントになります。


「業務フローを押さえる」こと

アルゴリズムそのものでの差別化が難しくなるとすると、やはり強いのが「面を取っていること」です。つまり、業務のなかで必ず使われなければいけないシステム(SoR)の座を取っているシステムが、さらに強くなると考えています。

LLMを特定の業務のために尖った体験に昇華するためには、その業務に最適化されたソフトウェアと組み合わされることが重要です。LLM以外の部分で価値を認められ、定常的に使ってさえいれば、さらに新しい体験への移行もスムーズです。

人間とAIとの新しい業務分担を定義するためには、まずは業務オペレーションがそのソフトウェア上で成立している必要があるという、ここでも当たり前の話が勝負を分けると私は予想しています。


「いや、それでもAIで突き抜ける」

ちなみに、当社MNTSQ社の戦略は「データを押さえる」+「業務フローを押さえる」+「AI自体でも突き抜ける」の3本柱です。

冒頭から「アルゴリズムでの差別化が難しくなる」と言っていながら、あまりにも手前勝手ですね。すみません。笑

ただ、もしもデータを押さえて、業務フローを押さえるところだけで勝負が決まるとすると、私たちはMicrosoftに永遠に勝てません。私は、国産のソフトウェアで日本のあらゆる業務を回せるだけの選択肢を提供したいですし、なんならソフトウェアを輸出産業にしたいと思っています。アルゴリズムでも勝負をしなければならない、と私は信じています

実は、Prompt EngineeringによってFine-Tuningが民主化するといっても、本当に専門性が深い分野では、それでもなおFine-Tuningによって差別化できる可能性があると私は信じています。BigTechの経済合理性ではすくいきれない個別性に圧倒的にコミットすることで勝負するというスタートアップの基本戦略を、アルゴリズムでもやり切る必要が産まれていると言ってもよいでしょう。

私たちの法務 / 契約分野などはまさにその典型例です。業界最大手のローファームと提携した私たちにしかないデータがあり、私たちにしかないドメインエキスパートとのコラボレーションができます。Fine-Tuningした結果を評価するにも専門性が必要であり、Generative AIの品質保証ではこの評価プロセスが不可欠になっていくでしょう。MNTSQ社も、まさに自分たちの領域に特化したPrompt Engineeringのノウハウを蓄積し始めています。

LLM後の時代とは、ドメインエキスパートとエンジニアとのコラボレーションがより重要な時代だと私は思っています。新しい潮流に揉まれながら、社会を前進させるプロダクトを開発したい皆さまのご参画をお待ちしています。

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